スナーク狩りの夜 - 2/2

3.シナリオの背景

 探索者たちと双子のブーケとバースディは、グレート・オールド・ワンであるシノーソグリス(『マレウス・モンストロルム』p.176)によって、死に誘われている。シノーソグリスは犠牲者を夢を見ているかのような催眠状態に陥らせ、白昼夢を見せる。犠牲者は自分自身の終焉を幻視し、最後にはシノーソグリスと対面すると、自ら死を迎えてしまう。この葬儀の神によって、ルイス・キャロルの「スナーク狩り」をモチーフとした、濃霧に包まれた帆船が作り出された。
 タイムリミットは、シノーソグリスの鎮座する濃霧に包まれた島へ船が到着するまで。脱出するには、正しく“スナーク狩り”をしなければならない。
 狂気に満ちた船の中、食屍鬼やモルディギアンの幻想に脅かされながら、探索者たちは無事に葬儀の神の夢から逃れられるだろうか。

4.主要NPC

■ブーケ&バースディ
 小学校低学年程度の外見をした双子の少年少女。ブーケは男児、バースディは女児。シノーソグリスによって死に誘われている彼らは、現実世界では事故に遭って意識不明の状態に陥っている。探索者に対して名乗るブーケ、バースディという名は旧神ヴォルヴァドス(『マレウス・モンストロルム』p.144)に教えられた名であり、本名は別に存在する。シノーソグリスの影響が探索者たちよりも深部に及んでいる彼らは、それを自分たちの名前だと認識している。
 彼らは導入時に探索者と出会って以降、同行するNPCとなる。外見相応の子供であり、基本的に無邪気に、恐ろしいものに対しては怖がるように振舞う。
 二人はシナリオ開始時点の少し前に目を覚ましており、「勇気」と書かれた部屋と甲板以外は訪れている。探検を終え目覚めた部屋に戻ってきたところ、探索者の姿を発見し、声をかけたのだ。
 このシナリオにおいて重要な役割を果たす彼らは、序盤の探索者にとっての水先案内人でもある。双子が知っていて適当だと思われる情報に関しては、キーパーは彼らの口を通して答えさせてもよいだろう。

5.導入~最初の部屋~

【NPC:双子のブーケとバースディ】

 探索者たちは、うつらうつらとまどろんでいる状態である。頭の中は霧がかかったようにぼんやりしていて、何か大切なものを置き忘れてきたような心持ちだ。それでいて、その状態が非常に心地よい。
 もうひと眠りしたくなるような気分のところに、細く水晶のようなちりんちりんという声が頭の中へと直接響いてくる。
「あなたの名前はベイカー」
「あなたの名前はブーツ」
「あなたの名前はバリスター」
「あなたの名前はブローカー」(※1)
「スナークを狩りなさい。あなた自身の未来のために」
その言葉が、何故か強く印象に残った。

 これは、旧き神ヴォルヴァドスの声である。本来ならシノーソグリスによってなすすべもなく命を落とすはずの探索者たちに、生きるチャンスを与えようとしている。

※1:これらは「スナーク狩り」の登場人物の名前であり、プレイヤー毎に個別に渡すと良いだろう。ただし、この演出はシナリオの展開上必須ではない。キーパーが処理が煩雑になると判断した場合、省略してもかまわない。

 少し意識がはっきりしてくると、探索者たちは今の寝心地が普段とまるで違うことに気がつく。不安定な寝床、ゆらゆらと揺れる地面。ここはまるで……。
そこまで考えたところで、探索者たちの耳に鐘の音が響く。

「「起きて!起きて!」」
「「1つ目の鐘が鳴ったよ!スナーク狩りなら起きなくっちゃ!」」

 目を覚ますと、そこは窓のない板張りの部屋のような場所だ。部屋にはいくつかハンモックが吊るされており、探索者たちはその上に横になっていた。服装はいつもの普段着だが、持ち物は身に着けている物も含めて無くなっている。
 床に足を下ろすと、部屋全体がぎし、ぎしと揺れていることが分かる。この部屋にはテーブルが1つあるだけで、奥に木製の扉が見える。
 探索者たちを起こしたのは、小学生ぐらいの年齢の少年と少女だとわかる。二人は双子なのか、顔や背丈がよく似ている。少年はブーケ、少女はバースディとそれぞれ名乗るだろう。
「8つ鐘が鳴る頃には、この船は“島”に着くんだよ!」と双子は声を揃えて探索者に告げる。その台詞を聞いた瞬間、“島”という単語に、何故か探索者たちは不吉な響きを感じる。
 この時の探索者には分からないことだが、シノーソグリスのいる“島”への到着、すなわち自分の間近に迫った死を恐れて、本能的に恐怖を覚える。探索者は、その根源的な恐怖から1/1D3正気度ポイントを失う。

 「スナーク」について探索者が知っているかどうかは、〈知識〉に成功する必要がある。成功すれば、ルイス・キャロルの詩「スナーク狩り」を知っており、スナークとはそこに登場する正体不明の生物であると理解できる。このロールに成功した探索者は、「スナーク狩り」の原詩に関する一通りの知識を身につけている扱いになる。

 テーブルの上には、『ルイス・キャロル』と表紙に書かれた本と、羊皮紙と羽ペンが置いてある。本は、ルイス・キャロルに関する簡単な解説書だ。一読すると、ルイス・キャロルについて、「スナーク狩り」のあらすじの情報を得られる。〈知識〉に失敗した探索者も、この本を読むことで「スナーク狩り」に関する大まかな知識を入手することができる。

■ルイス・キャロルについて
ルイス・キャロル(Lewis Carroll、1832-1898)
本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン
イギリスの数学者にして論理学者、写真家、作家、詩人である。
「不思議の国のアリス」の作者としてあまりにも有名。
かばん語や折句、韻文といった言葉遊びを得意とし、風刺的でナンセンスな作品を多く執筆した。
「スナーク狩り」は8章からなる詩作であり、謎の生き物スナークを探す探索隊の様子が描かれる。
彼の作品の中では暗い雰囲気で、幸福な終わり方ではない。
終盤ではバンカーが正気を失い、最後にはベイカーが消失して物語は閉じられる。

■「スナーク狩り」のあらすじ
ベルマンを筆頭に、ブーツ(靴磨き)、ボンネットメイカー、バリスター(弁護士)、ビリヤード・マーカー、バンカー(銀行家)、ブッチャー(屠畜業者)、ベイカー(パン屋)、ブローカー(仲買人)、ビーバーは奇妙な島へと上陸する。
ベルマンがスナークの特徴を説明する最中、ベイカーは伯父に教わったブージャムの恐怖を思い出し失神する。
一同は指ぬきと注意をしながら、フォークと希望を持って、鉄道株で命を脅し、微笑みと石鹸で魅了した。
ビーバーは天敵のブッチャーから2+1の計算を教わって二人に友情が芽生え、バリスターはスナークが法廷で脱走した豚の弁護をしている夢を見る。
バンカーはバンダースナッチに爪で掴まれ突っつきまわされ発狂してしまい、ついにスナークを見つけたベイカーは「ブー―」という不吉な声を残して姿を消してしまったのだった。


羊皮紙には以下のように記されている。

指ぬきと注意をしながら探すがよい
フォークと希望をもって狩り立てるがよい
鉄道株で命を脅すがよい
微笑みと石鹸で魅了するがよい


 〈知識〉成功者または『ルイス・キャロル』の本を読んだ探索者は、この内容が「スナーク狩り」の詩の引用だと分かる。

 この部屋で手に入る情報は以上となる。双子へ探索者が色々なことを尋ねてきた場合は、「ベルマンなら知ってるかも」、「ベルマンは指ぬきの部屋にいるよ」等と情報を与えて誘導するとよいだろう。

6.船内探索

A:廊下

 部屋を出た先には板張りの廊下が続いており、正面奥に1つ、左右に2つずつ木製の扉が見える。ランタンが廊下に数個ぶら下がっており、暖かみのある光が辺りを照らしている。

 扉にはそれぞれ真鍮製のプレートが打ち付けられており、「指ぬきと注意の部屋」、「フォークと希望の部屋」、「鉄道株の部屋」、「微笑みと石鹸の部屋」 、そして奥の扉には「勇気」と書かれている。
廊下で〈聞き耳〉を行った場合の結果は以下の通りとなる。
・「指ぬきと注意の部屋」…誰かがハンドベルを振り鳴らしている音が聞こえてくる。
・「フォークと希望の部屋」…家畜が騒々しい鳴き声がする。
・「鉄道株の部屋」…かたかたと木製の物が小刻みに揺れる音。
・「微笑みと石鹸の部屋」…時折キィキィという声が聞こえる。
・「勇気」…じゃらじゃらと鈍い金属の音がする。
 〈目星〉に成功すると、正面奥の「勇気」の部屋の手前から木製の古びた梯子が降りていることに気が付く。この梯子は船の甲板へと続いているが、甲板には食屍鬼の群れがいるため、双子は「こわいひとがいっぱいいる」「本を読むと爪がのびてせなかが曲がってお外にいっちゃう」等と言って、甲板へと向かおうとせず、探索者に対しても制止しようとする。彼らは食屍鬼を直接目にしてはいないが、ベルマンやバンカーから話に聞いているためだ。
 なおも梯子を上ろうとする探索者がいた場合は「F:甲板」に移行する。

B:指ぬきと注意の部屋

【NPC:幻覚妄想のベルマン】

 他の部屋と同様、この船室にも窓は無いが、壁には一面にクレヨンの落書きのように青空と海の絵が描かれており、異様な印象を与える。室内はまるで船長室のような設えだが、操舵輪はおもちゃであり、実際に船を操縦することは不可能だ。
 この部屋には一人の白髭を生やした船員風の男がいる。ハンドベルを手に持った彼は、重々しく勿体ぶった調子で「わしはベルマン。このスナーク狩りの隊長をしておる。君らの名前は?」と探索者たちに名乗る。

《ベルマン台詞例》
「そうか、諸君らもスナーク狩りか」
「わしらスナーク狩りの中にはひとつの恐ろしい言い伝えがある」
「スナークを狩るには勇気が肝心だ。もしスナークがスナークなら問題ない」
「だが、お前のスナークがブージャムだったなら、その時お前はひっそりかついきなり消え失せ、二度と会えなくなるだろう!とな」

スナーク狩りについてあれこれと尋ねる探索者に対し、「わしにできるのは心得を授けることだけだ」と、ベルマンは1枚の紙きれを手渡す。


◆心得1
乙女の嵌めた 指ぬきは
華奢なゆびさき 何から守る?


 他の部屋のスナーク狩りたちも同様にスナーク狩りの心得を知っているだろうということ、心得がスナーク狩りには何より重要だと探索者たちに念押しする。
 部屋の壁の絵や操舵輪を調べた探索者は、それがベルマンによってその狂気のままに描かれたもので、ベルマンがその絵を本物の海や空だと信じ込んで操舵輪を操っていることに気づいてしまう。まるで本物の船長のようにふるまう彼の真実を知ってしまった探索者は0/1D3正気度ポイントを失う。

C:フォークと希望の部屋

【NPC:屠殺の強迫観念持ちのブッチャー】

 厨房のような雰囲気のある部屋で、調理場と食材庫がある。食材庫にはいくつも檻が積まれており、中で家畜たちが鳴き声を上げている。部屋には、ぎらぎらと光る肉切り包丁を持った男がいる。彼はブッチャーである。
 探索者たちは部屋に入った瞬間、彼が豚の喉笛を掻っ切るさまを目撃してしまう。豚の断末魔の悲鳴と飛び散る飛沫というショッキングな光景を目の当たりにしたことで、0/1D4正気度ポイントを失う。

《ブッチャー台詞例》
「俺は、ブッチャー。お前らは、スナーク狩りか?」
「スナークを、捕まえたらな、俺は、こんな風に、してやるんだ」
「スナークってのは、なぁ、大味で、うつろ、ただしぱりっとしているらしいぞ」

 探索者と会話を交わしながらも、ブッチャーはひたすら家畜の首を切り続ける。心得を教えてほしいという探索者に対して、ブッチャーはにやつきながら「俺の仕事を手伝ってくれたら教えてやってもいいぞ」と口にし、肉切り包丁を渡してくる。
 包丁を受け取った探索者は、檻の中の動物を〈目星〉で選ぶことができる。喉笛を掻っ切った際、それを行った探索者の正気度喪失は動物の大きさに合わせて0/1D2~0/1D4程度となる。成功すると、殺した際の正気度喪失が少ない鶏(0/1D2)などを見つけることができる。
 檻から動物を選んだ探索者や食材庫の檻を調べた探索者は、ブタ人間(『マレウス・モンストロルム』p.102)を発見してしまう。

檻の中には、豚に似た奇妙な生き物がいた。
死人のような肌をした、蹄を持つ動物
小さな目と奇妙な耳、獣のように伸びた鼻
しかし口と顎は人間のそれを歪に曲げたかのようだった。
口をもぐもぐと動かし、半分豚のような悍ましい鳴き声を上げていた。

ブタ人間、下級の独立種族
STR 15  CON 11  SIZ 15  INT 10  POW 10
DEX 11  移動 8  耐久力 13
ダメージ・ボーナス:+1D4
武器
かぎ爪 30%、ダメージ 1D6+db
噛みつき 25%、ダメージ 1D4
牙で突く 20%、ダメージ 1D8+db
装甲:なし
呪文:なし
正気度喪失:ブタ人間を見て失う正気度ポイントは0/1D6

何か生き物を屠殺すれば、ブッチャーはその探索者へ心得の紙片を渡す。


◆心得2
きみが右ならフォークは左
いつも揃っていただきます


 調理場を調べた探索者は、望むならフォークやナイフ、その他調理器具を手に入れることができる。また、保存庫の中にはブドウ酒、ビール、バルサミコ酢、ビターチョコ、バター、ベリージャム、ビスケットといった物が入っている。予備の肉切り包丁も、ブッチャーに尋ねれば快く貸してくれるだろう。

D:鉄道株の部屋

【NPC:チックのバンカー】

 この部屋には巨大な金庫と本棚があり、中央のデスクには一人の英国紳士風の男が腰かけている。彼、バンカーの顔色はいかなる恐怖に見舞われたのか、赤黒く変色してしまっている。手や唇は小刻みに震えており、座っている椅子がかたかたと音を立てる。
 「き、き、き、き、きみたち、きみたちはブージャムなのか、そ、それともば、バンダースナッチなのか」と探索者に対しても怯えた態度で接する。酷く怖がらせるようなことがあれば、彼は気絶しかねない。
 バンカーにスナーク狩りの心得について聞くと、金庫に入っていると答える。金庫にはダイヤル式の鍵がかかっており、4ケタの番号を入力するか〈鍵開け〉に成功する必要がある。番号について聞くと、「金庫の番号は、と、と、年だ。き、き、キャロルがう、生まれた年だ」と教えてくれる。
 「ルイス・キャロルについて」にある通り、1832と入力することで金庫は開き、心得の紙片が手に入る。


◆心得3
だいじな鉄道株券が
衣装とともに ねむる場所


 部屋の本棚を〈図書館〉で調べると、何かの革でなめされたような本を発見する。本の蝶番にあたる部分には、硬く白い欠片が付いており、表紙には“Ghoul’s Manuscript”と書かれている。本の革や蝶番の白い欠片に対して〈医学〉に成功すると、それぞれ人間の皮と骨でできていることを理解してしまい、0/1D3正気度ポイントを失う。
 探索者に酷く忌まわしい印象を与えるこの本は、『食屍鬼写本』と呼ばれる魔導書である。英語を母国語としていない者が書いたような読みにくい英語で記されており、斜め読みに〈英語〉ロールを必要とする。
 成功した探索者は、この本が「納骨堂の神」と呼ばれる存在を崇拝するための文書であること、食屍鬼という醜悪な生き物と、彼らが死者を捧げるモルディギアンという名の神、その信仰について理解してしまう。探索者は1D2正気度ポイントを失い、〈クトゥルフ神話〉に+2%する。それに加えて、[POW*1]のロールに失敗するとその探索者は食屍鬼へと変貌してしまう。変身してしまえば、あとは他の食屍鬼たちと同じく甲板へ向かい、自らの神を信奉するばかりとなる。

 『食屍鬼写本』は「勇気」の部屋に現れるものへの示唆を与える書物ではあるが、探索者ロストに繋がる可能性の高い危険な魔導書である。この本を手に取った探索者に対しては、双子やバンカーから、甲板へ行く際の警告と同様に、読むと怪物に変貌してしまうことを伝えること。仮に食屍鬼化を免れ、かつ《モルディギアンの招来/退散》の習得に成功した幸運な探索者がいた場合、モルディギアンが招来された際に退散を試みることを認めても良い。


『食屍鬼写本』(『マレウス・モンストロルム』p.250)
著者:不明
言語:英語(読み書きの充分な素養を持たない者による)
モルディギアンとその信者について書かれた書物
呪文:《モルディギアンの招来/退散》、《食屍鬼との接触》

《モルディギアンの招来》
食屍鬼の棲む暗黒の洞窟か、または建設されてから少なくとも200年は経った墓地の中においてのみ招来が可能。招来には死体の生贄が必要。
消費したMPのポイントが成功の確率になる。呪文の使い手は1D10正気度ポイントを失う。

《モルディギアンの退散》
MP5ポイントを消費すると5%の確率で退散が可能、以降1ポイントごとに5%、24ポイントで100%。呪文の詠唱による正気度喪失なし。


E:微笑みと石鹸の部屋

【NPC:健忘症のビーバー】

 この部屋に入った途端、黴臭い匂いが鼻をつく。部屋中に洗濯物が干されており、湿っぽい空気が纏わりつく。部屋には衣服がしまうためのタンスが置かれているが、そこからもすえた様な臭いがする。
 ここでは一匹の動物がレース編みをしている。齧歯目らしい、オールのような形の尾をした生き物だ。〈知識〉、〈博物学〉、〈生物学〉または探索者自身の推測から、この動物がビーバーだとわかる。

《ビーバー台詞例》
「あの、いらっしゃい、どちら様?」
「あなたたちのこと知ってたかしら?知らなかったかしら?」
「あ、あちきは、あちきは、名前、なんだったかしら」
「なまえ、なまえ、大事なこともあったの。いつも忘れてしまうわ」

 ビーバーに何を尋ねても、健忘の症状を見せ自分の名前を思い出そうとするばかりで、心得の場所も要領を得ない。探索者が口頭でビーバーに教えるならば、一度は「そう、あちきの名前はビーバー!」と名前を思い出すが、スナークや心得のことを聞いたりするうちにすぐにまた自分の名前を忘れてしまい、心得やスナークについても思い出すことができなくなってしまう。
 最初の部屋にある羽ペンを使って、ビーバーの名前を目に付く場所に書けば、ビーバーは自分の名前と、芋づる式に心得のことも思い出す。キーパーは、探索者がなかなかビーバーから心得を引き出せないようなら〈アイデア〉をロールさせること。成功した探索者は上記に気が付くことができる。
 ビーバーは感謝の言葉とともに、心得の書いた紙きれを探索者に渡す。


◆心得4
かたちは少し 石鹸似
ケーキ作りと パンの友


 タンスを調べた探索者は、〈目星〉に成功すると乱雑に仕舞われた衣服に混じってハサミ、針、糸、指ぬき、ボビン、ボタン、株券、通帳、金貨といったものが散らばっているのを発見する。針や通帳は、心得の謎かけを解くためのヒントである。

F:甲板

 双子の忠告にもかかわらず探索者が木の梯子を上って行くと、船の甲板へたどり着く。帆船はどこもかしこも傷んでおり、帆はぼろぼろで中には折れてしまったマストもある。外はとても暗く、霧のようなもやがかかっており、その向こうに人影のようなものがいくつも見える。
 この時点で船内に戻らない場合、食屍鬼の群れに遭遇する。

人影がだんだんと近づいてくる。
どうやら深い紫色のローブのようなものを着ているようだ。
ローブの頭巾と銀色の頭蓋骨のような仮面の合間に、犬のような獣の顔がのぞく。
蹄状に割れた足、かぎ爪がローブから伸びている。
息も荒く近づく者たちからは、肉が腐敗したような臭いが漂う。
それは明らかに人間ではなかった。

食屍鬼、あざける屍肉食らい
STR 17  CON 13  SIZ 13  INT 13  POW:13
DEX 13  移動 9  耐久力 13
ダメージ・ボーナス:+1D4
武器:かぎ爪 30%、ダメージ 1D6+db
噛みつき 30%、ダメージ 1D6+牙でいたぶる(1D4)
1ラウンドに2本のかぎ爪と噛みつきの攻撃が可能。
噛みつきが成功すると、かぎ爪は行わず毎ラウンド1D4ダメージを与え続ける。
装甲:火器、飛び道具によるダメージは1/2切り上げ
呪文:なし
正気度喪失:食屍鬼を見て失う正気度ポイントは0/1D6

 この恐ろしい生き物の群れに遭遇した探索者は、1/1D6正気度ポイントを失う。食屍鬼に遭遇した後も、探索者が即座に逃げることを希望すれば、船内へ戻ることができる。

G:勇気

 「勇気」の部屋へと繋がる両開きの扉を開けると、室内は死の気配に包まれている。無数の棺桶が安置されており、蝋燭の光がそれらを妖しく照らし出している。部屋の奥には大きな石碑と、台座のようなものがある。そして、部屋の隅にはバンカーが言っていた巨大な怪物バンダースナッチ(=ガグ)の姿がある。

 “燻り狂ったバンダースナッチ”、そんな一節をあなたは思い出すかもしれない。
部屋の隅にいたのはあまりにも巨大で凶悪な怪物だった。
黒い毛に覆われた腕は途中で枝分かれし、それぞれに恐ろしい鉤爪が光っている。
腕や脚には鎖が巻き付いており、化け物から自由を奪っていたが、それでも近づけばやすやすと人の命を屠ることができるだろう。
何より恐ろしいことに、巨大な黄色い牙を生やしたその口は、頭の上から下へと走り、水平ではなく垂直に開いているのだ。

ガグ、不浄の巨人
STR 45  CON 29  SIZ 57  INT 13  POW 11
DEX 10  移動 0  耐久力 43
ダメージ・ボーナス:+5D6
武器:かぎ爪 40%、ダメージ 4D6(1本につき)
噛みつき 60%、ダメージ 1D10
踏みつけ 25%、ダメージ 1D6+db
装甲:8ポイントの皮膚、毛皮、軟骨
呪文:なし
正気度喪失:ガグを見て失う正気度ポイントは0/1D8

 ガグは部屋の隅に鎖で繋がれているため、探索者が奥の石碑などを調べてもその恐るべき爪が届くことはない。
 石碑を調べると、下記のように文字が刻まれていることが分かる。


スナーク狩りよ 心得たか?
ならばその首 さっと刎ね
スナークここに 捧げれば
舵は望みの 方角へ


 石碑文中にある「ここに」とは、台座に捧げればよいのだと探索者には推測できる。台座は黒い石でできた正方形の椅子ほどの大きさのものである。
 ほかに手掛かりを求めて棺桶を調べようとする探索者もいるかもしれない。棺桶の中には腐乱した死体が入っている。

棺桶を開けた瞬間、独特の臭気がつんと鼻をつく。
予想していた通り、そこにあったのは人間の死体だった。
腐乱が進んでいるのか、骨がところどころ覗き、眼球は腐り落ちている。
あなたはその欠落した眼窩が、自分を見ているように感じる。
なぜ、棺桶を暴いたか、と責めるように……

棺桶を暴いた探索者は、1/1D3正気度ポイントを失う。

7.謎解きとシナリオの進行

 このシナリオで「スナーク」の正体を明かすのに必要なものは、各部屋で手に入る4つの「心得」と、「勇気」の部屋にある石碑文だ。
 それぞれの心得の謎かけを解いていくと、このようになる。

乙女の嵌めた 指ぬきは 華奢なゆびさき 何から守る? →針
きみが右ならフォークは左 いつも揃っていただきます  →ナイフ
だいじな鉄道株券が 衣装とともに ねむる場所     →タンス
かたちは少し 石鹸似 ケーキ作りと パンの友     →バター

この答えを踏まえたうえで、石碑の文を読み解く。

スナーク狩りよ 心得たか?
ならばその首 さっと刎ね
スナークここに 捧げれば
舵は望みの 方角へ

 「心得の首」つまり、謎かけの答えの頭の文字を刎ねると、「はなたば」となる。船内に花束はないので、スナークとは双子の片割れのブーケを指すことになる。
 ブーケを「勇気」の部屋の台座に時間内に座らせることができれば、スナークを無事に狩れたものとして、探索者たちは生還できる。ただし、探索者たちがスナークの「首を刎ね」ると誤解していた場合、悲劇が待ち受けることになるだろう。ブーケを座らせるか何かの死体を捧げない限りは台座に何かを捧げても変化はなく、時間が刻一刻と過ぎていくばかりだ。

 オンラインテキストセッション上では、セッション開始時に初めの鐘を鳴らし、その後実時間30分ごとに鐘を鳴らす(最初の鐘から3時間半後に8つ目の鐘が鳴る)ほどの時間が適当だろう。1部屋の探索を30分程度で行い、「勇気」の部屋に入る時点で最後の鐘が鳴るまで1時間以上残しておくようにすると、プレイヤーが推理に時間を割くことができる。
 マスタリングの参考までに、シナリオ製作者がNPCの口からヒントを出す目安として、最後の鐘まで残り1時間を切った頃に心得の謎かけの答えを、残り30分を切った段階で「首を刎ね」が語頭を指すことを示唆するようにしている。「はなたば」を導き出した後、ブーケの首を切らなくていいということに気が付くかどうかはプレイヤーの手に委ねる方が望ましい。
 かなり時間が経っても探索者が最初の部屋の文に従ってバンカーを脅したり、指ぬきを自分に嵌めたりなど真相から遠い動きをするようなら、NPCの口から大事なことは心得であり、詩のなぞらえに翻弄されてはいけないと忠告するのも一つの方法かもしれない。

8.結末

エンドA:かんがやかしき結末

 謎を解き明かし、ブーケを台座に座らせた場合、探索者たちはシノーソグリスの夢から覚め、死から逃れることができる。

ふと、少年の、蝋燭に照らされた影の部分が急に存在感を増したように感じられる。
影はみるみるうちに膨張し、部屋全体を覆わんばかりになった。
それは黒く、ぼんやりとした暗闇の塊なのに、どういうわけか奇妙なまぶしさで目をくらますのだった。
蝋燭の炎と熱がその渦巻く虚空のような身体に吸い込まれて掻き消える。
部屋の気温が急激に低下し、あなたたちは寒気を感じずにはいられない。
後に残ったのは独特の臭気と凍りつきそうなほどの冷気、そして完全な静寂。
今や部屋全体に満ちた暗黒は、すさまじい勢いで渦巻きながら刻一刻と姿を変えていく。
漆黒の闇が、あなたたちを包み込む。
もはや、視界には少年も、少女も映らない。
ただ、輝くような暗闇を感じながら、あなたたちの意識は途切れた……。

 探索者は当然のクラクションの音に、我に返る。夢から覚めたのだ。そこは繁華街の交差点で、歩行者信号が赤になっていることに気づく。
 次の瞬間、何台もの車が猛スピードで道路を行き交う。ぼうっとして信号を見逃していたところを、間一髪で踏み止まる。さきほどまでの出来事は、一瞬の白昼夢だったのだろうか、と首を傾げるかもしれない。
 街にかかっていた霧が徐々に晴れていくと、ビルの電光掲示板が臨時ニュースを流しているのが目に留まる。
「事故で重体の双子、意識回復」
 探索者たちが双子の未来を救えたことを暗示させ、シナリオは終了となる。
 かくして生還した探索者たちは、1D8正気度ポイントを獲得する。また、双子を救い出したことにより、+1D6正気度ポイントを獲得する。

エンドB:スナークはブージャムだったのさ

 探索者がスナークの首を捧げなければならない、と解釈した場合、ブーケの首を切断したり、他のNPCを殺傷して台座に捧げることも考えられる。ブーケやバースディ等のNPCを、肉切り包丁で首を切るなどして殺害した場合、手にかけた探索者は1D3/1D8、目撃した探索者は1/1D8正気度ポイントを失う。NPCを殺害する場合、判定は必要なく自動成功となる。双子の片割れは、絶望的な悲鳴を上げ、自分の対を失ったことによる狂気的な振る舞いを探索者に向けるだろう。
 その上で、首を「勇気」の部屋の台座に捧げると、『食屍鬼写本』にも予見されるように、モルディギアンの招来が行われる。

台座に捧げた骸の、蝋燭に照らされた影の部分が急に存在感を増したように感じられる。
影はみるみるうちに膨張し、部屋全体を覆わんばかりになった。
それは黒く、ぼんやりとした暗闇の塊なのに、どういうわけか奇妙なまぶしさで目をくらますのだった。
蝋燭の炎と熱がその渦巻く虚空のような身体に吸い込まれて掻き消える。
部屋の気温が急激に低下し、あなたたちは寒気を感じずにはいられない。
後に残ったのは独特の臭気と凍りつきそうなほどの冷気、そして完全な静寂。
今や部屋全体に満ちた暗黒は、すさまじい勢いで渦巻きながら刻一刻と姿を変えていく。
そして忽ち目のない顔と、手足のない胴体を持つ、魔物のような巨人に似た姿になった。

 探索者は、死せるものの神モルディギアンの奇怪に変化する眩惑的な姿を目撃し、1D8/1D20正気度ポイントを失う。

モルディギアン、納骨堂の神
STR 35  CON 77  SIZ さまざま  INT 20  POW 25
DEX 20  移動 16  耐久力 77
ダメージ・ボーナス:+6D6
武器:のみ込み 75%、ダメージ 死
装甲:魔力を付与されていない武器によって傷つけられることはない
正気度喪失:モルディギアンを見て失う正気度ポイントは1D8/1D20

引用:『クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム』スコット・アニオロフスキーほか作、坂本雅之/立花圭一訳、KADOKAWA/エンターブレイン、2008年、初版、p.249

 降臨したモルディギアンは、探索者全員に対して「のみ込み」による攻撃を行う。探索者の生死を分けるロールになるので、1D100>75で探索者自身にロールさせるとよいだろう。このロールに失敗したうえで〈回避〉にも失敗した探索者は、モルディギアンに呑み込まれてしまう。
 探索者は闇のように暗く不思議と輝くような黒い塊が、自分を呑みこむのを感じながら、安らかにこの世を去る。探索者は死亡となる。他の探索者の目には、彼が服だけを残して突然消失したように感じられるだろう。そう、まるで彼がブージャムに出会ってしまったかのように。モルディギアンの攻撃をなんとか躱すことができた探索者も、漆黒の闇に包まれ、まもなく意識を失ってしまう。

 のみ込みを免れた探索者は、辛くも現実へと引き戻される。以降の展開はエンドAと同様だが、電光掲示板には「事故で重体の双子、死亡」という文字が流れる。探索者が双子の片割れの首を切断した際には「うちひとりは頚椎骨折」と表示されるなど、白昼夢の中での出来事を暗示させると良いだろう。
 死亡した探索者がいる場合、その情報もここで流すと良い。先ほどまでの光景が三途の川か走馬灯か、あるいはただの幻覚だったのか、探索者には知るすべはない。
 生還した探索者は、1D8正気度ポイントを獲得する。ただし、双子を殺めた探索者には、正気度の回復はない。

エンドC:八点鐘が鳴り止んで

 8つ目の鐘が鳴るまでに探索者たちが上記どちらの結末にもたどり着けなかった場合の結末を以降に記載する。
 答えを導き出そうとする探索者たちの思いもむなしく、8つ目の鐘が鳴り響くと、船は減速を始め、やがてどこかに停泊したことがわかる。すると、甲板から食屍鬼の群れがぞろぞろと探索者たちの元へ迫り、船外へと引きずり出す。濃霧に包まれた奇妙な島へ上陸した探索者たちは、霧の中からシノーソグリスによる手招きを受けると、ふらふらと歩み寄る。そしてシノーソグリスに触れられ、穏やかな死を迎える。

黒い、石碑のような物体。あまりにも巨大で不格好な岩のようでもあった。
捩じれた奇妙な輪郭からは上方に向かって曲がった腕のような付属肢が突き出され、そのこぶしは固く握りしめられていた。
計り知れないほどの時間の中でその動きを保ち続けていただろうそれを見て、あなたは静謐な死を自らに受け入れる。

 この結末を迎えた探索者は全員死亡となる。

 

参考文献
『クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム』スコット・アニオロフスキーほか作、坂本雅之/立花圭一訳、KADOKAWA/エンターブレイン、2008年、初版

『スナーク狩り』ルイス・キャロル作、高橋康也訳、河合祥一郎編、新書館、2007年

 

 

 

「やろうずwiki」版公開:2014年

「破れ文車」版公開:2017年12月6日

TRPG二次創作活動ガイドライン対応・一部修正:2022年7月14日